傳燈(伝灯)とは、法灯を師から弟子へと伝え続けることです(師資相承)。

永く永く、永遠(とこしえ)に。

しかしながら昨今は「寺院崩壊」という言葉が目立ち仏法が途絶えてしまうことが懸念されています。いまこそ傳燈を真剣に考えるべきではないでしょうか。

寺院経営セミナーを各地にて開催しておりますが、寺院の方よりこういう声をお聞きします。

「我々はお寺を経営しているのではない」と。

ご指摘の経営とは、自分だけが儲かるとか、金銭を追求するという考え方の事と推測します。

その経営の捉え方は、ドイツのクラウゼウィッツの『戦略論』から起因します。国家間の戦争で他国より確実に勝つ為の論理が戦略であり、それをベースとしたのが現代の経営論です。ともすれば他者を潰して自分だけが勝つ、自分だけが儲かるという要素を含みがちですので、寺院経営の「経営」の意味する事ではありません。

 

 ここで経営の意味を紐解いてみましょう。

「経」とは経済であり、「営」とはいとなむという意味です。そして経済とは「経世済民」を表しますが、それは「世(国)をおさめて民を救う」という意味です。まさしく世の中に貢献し、民衆を救うよういとなむことが経営です。

『抱朴子』には「以聡明大智、任経世済俗之器」と書いてあります。この大智を仏法の智慧ととらえます。聡明で大いなる智慧があってこそ経世済民ができると讃えています。それは仏教者の姿ではないでしょうか。

 

 戦国時代から江戸時代にかけて活躍した商人で角倉了以がいました。彼は海外貿易で大いなる財を築きますが、その財により運河をいくつも開削しました。

京都の保津峡くだりをご存知でしょうか。亀岡から嵐山まで保津川の峡谷を舟でくだる景勝地嵐山の観光スポットです。この保津川、実は人工で開削した運河なのです。あの峡谷と濁流を経験した方は、どれだけ難工事であったのか容易に想像できることと思います。

角倉は京に住む民がよりよく生きるために、私財を投じて工事を行い、保津川を亀岡から大量の物資を運ぶ運河として機能させたのです。一方、角倉は京都の繁華街の木屋町に流れる高瀬川をも開削していますが、三条から宇治までの長いルートを運河で通し、民の運搬の便としています。現在の京都の発展に大いに寄与していると言えましょう。角倉了以は、経営で得た大きな利益を運河の開削によって民に還元したのです。まさに経世済民です。

 

 永く続く商家には、「蔵をあける」という言葉が残っているそうです。商人は蓄えた利益を貯蔵するために次々と蔵を建てていきます。大商人と呼ばれる商家では何棟もの蔵が立ち並んだことでしょう。実は蔵を建てる理由は、飢饉等で民が苦しんだ時に「蔵をあけ」て、貯蔵した物資を無償で分け与えるための準備です。まさに布施波羅蜜です。

日本で培われた経営は、政府(幕府、朝廷)が何かをするのを待つのではなく、自ら民の幸せを考え、来るであろう危機に打ち勝つために準備するのです。

 

 日本には楠学問という考え方があります。

楠からは医薬品として使用する天然の樟脳がとれたために、どこでも大切に育てられたそうです。楠はかなりゆっくり成長しますが、どれも確実に大樹となります。それを見て民は、永遠に成長し発展するとして、楠より多くを学んだそうです。神社及び寺院では大樹をご神木として祀る姿を拝見しますが、多くは楠です。実は自坊にもあり、その大樹を見上げて私も育ちました。民は楠の大樹を畏敬し、多くを学び、成長と未来を祈ったのですね。

 永い時を継続し、民を見守り大樹となるよう成長する考え方、それが日本の経営です。

自分だけが打ち勝ち利益を得るような考え方とは、まるで異なる事がお分かりの事と存じます。戦争に勝つための戦略ではなく、慈愛の戦略と考えることができます。

 

 ある調査によると創業200年を超える企業は世界に5586社あり、その56%が日本の企業だそうです。なるほど上記のような経営の考え方ならば納得できます。

実はそれ以上の歴史があり、今なお継続している法人が、その10倍の50000件を超えるのをご存知でしょうか。これが寺院です。どうしてこれだけの数が継続できたのでしょう。

寺子屋で象徴されるように、寺院は日本で培われた経営の舞台だったからです。

実に巧みに経営され、村の中心として機能し、民を豊かに導きました。

同時に傳燈は継承され、師資相承し、寺院は次の世代へと継承されていきました。

寺院経営の経営とは、仏法の慈悲を実践する経営と捉えられるのではないでしょうか。

寺院経営の意味を理解いただき、寺院の継承にいかしていただきたいと願う次第です。

 

 

 

 

感謝合掌

 

寺サポート 代表 大野 雅仁

セミナー講師

寺院経営セミナー(年間60回以上)を行う講師が全国各地各宗派のセミナー講師として承ります。

◎代表プロフィール

大野 雅仁 僧名 釋雅仁

 

真宗大谷派僧侶 仏教史家 寺院経営コンサルタント

寺サポート代表  特定非営利活動法人神戸平和研究所 理事

1963年真宗大谷派寺院の次男として生まれる。

72年東本願寺にて得度。

86年大谷大学卒業 大谷派教師資格取得 

93年大谷大学大学院後期博士課程満期修了。専門は中国仏教史。

 

30歳より在家にて勤務し、現代日本の仏教のあり方を仏教史家の観点より実践的に研究。13年間在籍した某生命保険会社では仏教各派の寺院より数多くの経営相談を受ける。その中で僧侶の退職金及び寺族保障の必要性を痛感し、15年以上にわたり寺院退職金制度の普及に努める。浄土真宗各派、浄土宗各派、日蓮宗各派、禅宗各派、密教各派など、実績は多岐にわたる。

現在は、寺族、僧侶による唯一の寺院経営コンサルタントとして仏教界内外からの注目を集め、僧侶としての観点から寺院の経営改善につとめる。2019年2月より開始した寺院経営セミナーは全国で60回以上開催中である。

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